“今”を表現する。イラストレーターさくらいはじめ【前編】
お話を聞いた人
-
さくらいはじめ さん
広告、ポスター、レコードジャケットなど、数多くのアートワークを手がけるイラストレーター・グラフィックデザイナーのさくらいはじめさん。『#オオサカキリトリ』のイラスト・デザインを手がけ、世界を体感する男が見た大阪の今をキリトリ、前編・後編の2回にわたってお届けします。
さくらいはじめ instagram
本サイトで表現したのは、
大阪人の「意識の高さ」
大阪を拠点に10年以上活動しているんですが、実は「オオサカ」をテーマとした仕事って、それほど多くないんです(笑)。ですから、「#オオサカキリトリのイラストやデザインを手がけてほしい」という依頼をいただいた時は、素直に大阪に関わることができてうれしかったですね。
僕の作家としてのイメージはどちらかというと「東京っぽいですね」「関西出身なのが意外でした」と言われることが多く、自分自身も「ローカルに収まりたくない!」という気持ちが今なお強い。だから、このウェブサイトでも僕らしさ全開で表現させていただきました。
イラストで意識したのは、大阪人の「意識の高さ」。大阪人ってコテコテなパブリックイメージがあるけれど、実は洗練された一面も持ち合わせています。それを少しでも多くの人に知ってもらいたかったので、通天閣や太陽の塔といった大阪のランドマークをバックに、トレンドのファッションに身を包んだ若者を描きました。つまり、大阪らしさの中に“今”を表現したかったんです。
“今”を取り入れることは、作品づくりで最も大事にしていることの一つ。これを意識しないとイラストレーターとしてのクライアントワークは難しいし、僕らしくもない。その瞬間、その時代の“今”を自分なりに解釈し、そこに個性を織り交ぜつつ表現するバランス感覚が、作家としての腕の見せ所だと思います。
論理的な建築から、ソフトでポップなグラフィックを求めて
もともと絵を描くことやデザインすることは好きでしたが、高校時代は建築に興味があり、1年浪人したのちに京都工芸繊維大学の工芸学部造形工学科に入学。そこで論理的に建築や設計、デザインを学び、そのまま大学院に進学し、学びをより深めました。
初めて社会に出たのは26歳の時。大学院卒業後はこれまでの建築の知識を活かし、建築事務所や空間デザインの事務所に勤めていましたが、建築デザインよりもソフトでポップなグラフィックデザインに気持ちが傾くことに。5年ほど建築や設計の仕事をしながら、グラフィックデザインを独学で勉強していました。
“恩人”との出会いでイラストレーターとして本格始動
イラストやグラフィックデザインを生業とするようになったのは、30代前半の時。会社を辞め、フリーランスのイラストレーター・グラフィックデザイナーとして友人たちからの発注で食いつないでいた時、大阪のラジオ局FM802主催のアート発掘・育成プロジェクト「digmeout」のオーディションに応募しました。オーディション自体は残念な結果に終わったのですが、当時「digmeout」のプロデューサーを務めていた谷口純弘さんと出会ったことは、その後のキャリアを好転させるきっかけに。そこから少しずつFM802関連の仕事をいただけるようになり、本格的にイラストレーターとしての道を志すようになりました。
中でも転機となった仕事が、JR大阪環状線50周年ラッピング列車「OSAKA POWER LOOP」号の車両ラッピングです。谷口さんの推薦で参加することになり、JRやFM802などのクライアントからも一定の評価をいただき、アーティスト7人のうちの一人に選出されました。
ラッピングする7車両それぞれにテーマが設けられ、僕は「大阪のランドマーク」を担当。通天閣や天王寺動物園など、大阪環状線の車内から見える大阪の観光スポットを“POP ART SOUL”な雰囲気に描き上げました。
環状線の駅のホームで電車を待っている時や自転車で走っている時に、自分が描いた「OSAKA POWER LOOP」号を見かけた時の感動は忘れられません。まわりの友人が写真を撮ってくれたり、SNSで拡散してくれたりと、PRしてくれたこともうれしかったですね。大阪で活動するイラストレーターとして、話題性の大きな大阪のビッグプロジェクトに携わることができたのは、今でも僕の誇りです。